極上のワインはそれを産するぶどう畑が決まっている。ということは、長い時間をかけてぶどう畑の土壌がつくられ、同時にその土壌に最適のぶどうの木がつくられたわけだ。ほかのくだものでも同じような事情があるのだろうか。つまり抜群においしいりんごというものはあるのか。ある、と思われる。毎年季節になると、りんご好きの友人に、ある農園のりんごを贈る。贈られたりんご好きは、いつのまにかその農園から直接りんごを取り寄せるようになっている。そういう例があまりにも多いので、自分ひとりの好みではなく、やっぱりおいしいりんごはあるのだな、と思わざるを得ない。そこで、おいしいりんごの秘密を探るために、その農園のある岩手県滝沢村の「菊田果樹園」に旧知のKさんを訪ねた。岩手山東南麓のまつよい草の原っぱを、大正初期に祖父が開墾したのが始まりで、3代かかって今の果樹園がある。「土壌づくりが、良いりんごのもとになるというのは、子供のときから教えられていました。畑にひと坪ぐらいの穴を掘って、大量の堆肥を入れる手伝いをやらされたりして」とKさんはいう。若いころは演劇青年で、今も岩手有数の子供劇団を主宰し、忙しい農事の合間をぬって指導にあたっている。物静かな話し方だけれども声は明るい。