前途の多難さゆえに癌と闘うことを繰り返し言い聞かせた

2012-02-05

癌と闘うこと、金を稼ぐことがしつこく出てくるが、その前途の多難さにくじけぬよう、意を決するために繰り返し自分に言い聞かせていたのだと思う。現実を考えれば暗瀞たる気持ちにならざるを得ぬ闘いなのである。このときの化学療法は、私ではなく、外科のT先生が担当したが、私も治療の選択については相談を受けた。医師は「先制攻撃」と名づけているが、医学的な用語で言えば、術後補助化学療法であり、その意味について簡単に整理すると次のようになる。手術で目に見える部分の癌はすべて切除し、周りのリンパ節もきれいに取り除いた(リンパ節廓清という)。しかし、医師のケースのように進行した癌の場合、目に見えない微小な転移がすでに体内に残存しているかもしれない。それが将来進行していくと目に見える形の再発や転移ということになる。この目に見えない相手に対して先制攻撃を仕掛けることが「術後補助化学療法」の意義なのだ。例えば乳癌などの場合、適切な術後化学療法は再発率を一〇%以上下げる(つまり完治する患者をふやす)ことが期待できる。しかし、胃癌の場合、術後化学療法が再発予防に本当に有用なのかどうかは二〇〇五年当時、科学的に証明されていなかった。事実、二〇〇四年版の「胃癌治療ガイドライン」には術後補助化学療法の意義は確立していないと記載されている。しかし、実際にはティーエスワンという内服の抗痛剤が広く用いられており、彼に開始されたのもこの内服薬である。ティーエスワンの有用性はこのころ行われていた多施設の臨床試験で検討されている最中だった。